あやかし郷愁譚 ~送り雀 ひよ~ レビュー 妖と人間の関係性とその変遷

#0 ひよの自己紹介
のしカウント 8

 

シャボン玉の歌、よい

 

送り雀(おくりすずめ)は、和歌山県奈良県吉野郡東吉野村に伝わる妖怪[1]。和歌山では雀送り(すずめおくり)ともいう[2]。その鳴き声を実在の鳥のアオジにたとえ、蒿雀(あおじ)とも呼ばれる[3]。
夜、人が山道を歩いていると「チチチチ……」と鳴きながら飛んでくる[1]。夜に提灯を灯して歩いていると、寄って来るともいう[4]。和歌山では妙法山によく現れたという[5]。この鳴き声の後にはオオカミ[5]、もしくは妖怪・送り狼が現れるといい[4]、道で転倒するとすぐにそれらに襲撃されてしまうため、送り雀の鳴き声を聞いた者は、転ばないよう足元に注意を払いつつ歩いたという[1]。
(出典:Wikipedia

 

自己紹介だからといって、聞き逃すことがあってはならない。
こういった細かいところに、重大なヒントが隠されている。

 

ひよの自己紹介では、送り狼が出た時に、人間を守るために鳴き声を出すという。また、Wikipediaでは、送り雀が鳴き声を出した後、送り狼が現れるという。
一般的な伝承では、送り雀は悪いことはしないとされているようだ。「狼がいるから気をつけろ、転ぶな」という警告をし、転じて、ひよの言うように人間を守るという形になったのだろう。

 

ここに、ひとつ疑問が生じる。なぜ、転倒しなければ送り狼に襲撃されないのか。
狼の速度は50~60km/hに達する。転ばないように歩くどころか、走ったとしても、とても逃げ切れるものではない。
可能性として、狼は雀を恐れており、人間のそばに雀がいる限りは襲えないというものがある。
転倒すると襲撃されるのは、転倒の衝撃で雀たちが驚き、飛び立ってしまうから、と捉えることもできる。

 

しかし、送り雀が、人間の所在を狼に告げているという可能性も捨てきれない。
鳥類は人間と比べて視力が良いとされるが、特に雀などは日没後、餌を見つけることが困難になるようだ。
それでも、人間程度の大きさであれば発見は容易であると考えられるし、狼よりも行動しやすいことを考えると、雀が見つけて狼に知らせる、という狩りの方法は合理的に思える。

 

かといって、伝承が存在するということは、実際に送り雀に助けられたという事例が存在するからである。火のない所に煙は立たぬということわざもある。
これについては、実際に助けることもあり、それにより送り雀への警戒心を薄れさせているという仮説が成り立つ。
上手な嘘のつき方は、時折真実を交えることである。

 


また、舞台設定では、ひよは高知県の山奥にある「茂伸(ものべの)」という土地で暮らしていることが分かる。

 

茂伸というワードで検索すると、茂伸を舞台にしたアダルトゲームのWikipediaに行き当たり、ここでも舞台は高知県の山奥であるとされている。
実在しない地名が合致することはさすがに不自然だが、調べてみると、メーカーは違うものの、共同開発のような形でリリースされているらしい。アダルトゲームの設定を、この音声作品にも転用したような形だ。

 

かつて高知県には物部村という村があったが、茂伸という地名は、ここから拾っていると考えるのが妥当だろう。
ともあれ、ひよの話す「のし言葉」は紀州弁で、高知から近いとは言えない。

 

なぜ、ひよは和歌山出身であるにもかかわらず、高知の山奥で暮らしているのか、送り雀は本当に人間の味方なのか。
それはこの先のトラックを聴いていけば分かることだと思う。
ひよに販促ボイスを喋らせるよう頼んだ「茂伸の小さな神様」がキーパーソンになるかもしれない。

 

 

 

#1 タイトルコールと音源の紹介
のしカウント 16

 

この音声がバイノーラル音声であることを紹介し、実際に前後左右から喋ってみるトラック。
バイノーラル、すごい。本当に右から左から聴こえてくる。謎の技術。

 

だが、バイノーラルのすごさに圧倒されたからといって、大事なことを聞き漏らすわけではない。
「トラック1やらいうとこで、おはなしの中でまた会おうなぁ」というセリフがある。

 

トラック0(ひよの自己紹介)は、付属の台本ファイルには記載されていなかったので、このトラックがトラック0、つまり、このセリフでは次のトラックを指していると読むのが自然だ。
しかし、問題はそこではない。ではこのトラックはどこで行われている会話なのか。
次トラック以降で展開する話は、茂伸で行われている。また、茂伸で出会ったひよは、主人公に対し、初対面であるような反応を見せる。

 

ここから分かることは、ひよは茂伸で出会う前、過去の主人公に接触し、かつそれは茂伸のひよと別個体だったということだ。
前トラックで取り上げた問題など些末なものだと言える、重大な事実が隠されている。
ひよはいったい何者なのか?

 

 

 

#2 イントロダクション
のしカウント 25

 

歌い終わったあとの「うんっ」がかわいい。

 

このトラックでは、ひよが茂伸に越してきた理由が明かされる。
茂伸の神様が、「このまま和歌山にいると消えてしまう」とひよに告げたそうだ。
なぜ神様が高知から和歌山まで来ていたのか、なぜ消えてしまうのか、現時点では不明だ。

 

ともあれ、茂伸の神様にみかんを大量にもらったため、食べに来ないかと誘われ、ひよの自宅に行くことになる。積極的ですね。

 

ひよの家に向かう道中、主人公は地面の切株に躓いて転ぶ。
ひよは飛べるため、道を作る時にしっかりと整備しなかったそうだ。
送り雀の伝承を思い出してみるに、なにか示唆があるような気がしてならないが、考えすぎだろうか。

 


家に着き、ひよとみかんを食べる段になると、みかんは割って食べるものだという話をされる。
いわく、割ってから食べた方が甘味を強く感じるらしい。
聞いたことがないが、確かにみかんは衝撃に弱く、衝撃を与えられるとクエン酸を修復のために消費するため、甘くなりやすい。
そのため、私は「軽くキャッチボールしてから食べると甘い」と教わって育った。
だが、食べ物を投げるというのはあまり行儀が良いとは言えない。ひよは、行儀よくおいしいみかんを食べるために、割ってから食べるという方法を編み出したのだろう。

 

と思っていたら、ひよはおもむろに、みかんでお手玉を始める。
???????????

 

 

 

#3 ひよのお手玉教室
のしカウント 28

 

ツボ押す時の音、でかそう

 

ひよにお手玉を教わる主人公だが、みかん2個ですら満足にできないらしい。ざっこw
ひよは、その原因が腕の疲れにあるのではないかとあたりを付けるが、みかんすら投げられない腕、さすがにやばそう。

 

このトラックでは、手をマッサージされながら、送り雀の役割について伝えられる。
ツボの解説や雑談と交わりながら語られるため、音声だけでは完全に話の流れをつかむことが難しい。

 

大筋は、この記事の冒頭に書いた通り、送り雀は送り狼から人間を守る妖だ、ということだ。
送り狼は、人間の後をこっそりつけ、食べるらしい。もしかすると、妖の狼は、通常の狼と異なり、走ることができないという可能性もある。
というか、それ以外に、送り雀の声を聴いて走り出した人間が、送り狼から逃げられる合理的な説明ができない。

 


だが、それよりも重要なセリフが、このトラックには隠されている。
送り雀は何から人間を守るのか、という質問に対し、「それを主人公が知っていたらひよはここにいないかもしれない」と返すセリフがある。

 

なぜ、主人公が送り狼の存在を知っていると、ひよが茂伸にいないことになるのか。
考えられるのは、主人公だけでなく、人間すべてが送り狼の存在を知らないというケースである。
時代が進み、人間が送り狼を恐れなくなったので、送り雀も役割を終え、ひよが茂伸に来たという話。

 

もう1つが、「ここ」は茂伸を指すのではなく、ひよの家を指すというケースである。
ひよがひよの家にいないということは、ひよと主人公が出会った竹藪付近にいると考えるのが妥当だろう。その場合、ひよと主人公は一度会っているが、その後別れているということになる。
その理由に「主人公が送り雀の役割を知っているかどうか」がかかわるとするなら、この場合、主人公はひよから逃げたと考えるのが自然である。

 

つまり、伝承は時代とともに歪曲し、私が上述したように、送り雀は送り狼を呼び寄せる妖だとされるようになった。送り雀であるひよは、人間の敵であるとみなされ、故郷を追われ、山奥の茂伸に移った。主人公は、送り狼を呼ぶ妖を見て、驚いて逃げた。かわいそう

 


どちらになるのかは、今後のトラックで明かされるだろう。だが、あらゆる事態を想定しておくことが、複雑な状況に対応する唯一の方法でもある。

 

 

 

#4 耳かき右耳
のしカウント 22

 

耳かきの音めっちゃぞわってなる

 

手のマッサージによりお手玉が多少うまくなったものの、歌を歌いきるまでは続けられない主人公。
原因を考えていた時、主人公が耳をほじったのを見て、ひよは「耳が詰まっているため、歌がよく聴こえずに続けられないのではないか」と言い始める。正直意味が分からない

 

ともあれ、耳かきをされることになったが、ひよは初めて耳かきをするにもかかわらず、上手にこなす。
いわく、送り雀は人間の味方だから、人間を助けることは上手にできるのだろうという。

 


その後は、前トラックの続きで、送り雀がどのように人間を送り狼から守るかが語られる。
伝承通り、大きな声で鳴くことで人間を走らせるそうだ。それで狼から逃げ切れるのは、妖の不思議な力として捉えているようである。

 

主人公はその話を聞き、ひよに会っているということは、送り狼がすぐそばにいるのではないかと思い至り、怯え始める。
それに対しひよは、「もう送り狼はいない」と返し、このトラックは終わる。
つまり、前段落で考えた2つの説は、前者が正しかったことになる。解散!

 

 

 

#5 耳かき左耳
のしカウント 11

 

引き続き左の耳かきに移るが、主人公は左耳を上にして寝ているため、左耳の方が耳かすが溜まっているらしい。
私は右耳が上に来るので、主人公≠私が確定した。左腰が悪いのに左を下にして寝るの、愚かでは?

 

ひよの話によると、送り狼はもう日本のどこにもいないらしい。
妖は「人の想いが形をもったもの」である。送り雀は、送り狼から守ってほしいという、人間の想いから生まれた妖だ。
送り狼は、野生生物あるいは人間に殺された人間を、妖のせいにしてしまおうという、人間の想いから生まれたという。
似た伝承に神隠しがあるが、あちらは、特に神聖な場所で行方不明になったものを指すことが多い。また、神隠しは死体があるといったこともないので、少し異なるものであると言えそうだ。

 

とにかく、人が恐れる心が送り狼を生み、それが発展して送り雀も生まれた。
送り雀が人間を助けられるようになると、次第に人々の心からは送り狼への恐怖が薄れていく。また、文明の発展に伴い、夜道はどんどん明るくなっていく。

 

人間が送り狼を恐れなくなった時、送り狼はこの世から消えたそうだ。
送り狼がいないということは、送り雀もいらないということである。ひよも消える運命にあったが、その前に茂伸の神様が引っ越しを勧め、ひよは茂伸に越してきた、ということらしい。切ない。

 


さて、送り狼は関東から近畿、また高知に伝わる伝承である。対して、送り雀は和歌山から奈良南部という狭い地域のみに伝わる伝承である。
ひよは、少なくとも他の地域の同胞を認識していない。茂伸の神様が、ひよにだけ引っ越しを勧めたということも考えにくいので、伝承通り、送り雀はひよだけだったと考えるのが自然だろう。

 

ひよの活動範囲は和歌山周辺だけだったにもかかわらず、ひよは「送り狼はもういない」と断言する。その根拠は謎だが、その言葉を信じるならば、送り狼が消えた理由は、文明の発展が占めたところが大きいと推測できる。
送り雀が生まれなかった地域は、そもそも送り狼への恐怖もそれだけ小さかったと言える。あるいは、送り狼の仕業とされるような怪死が少なかったか。治安が良かったのかもしれない。

 


閑話休題
茂伸に越してきたひよだが、依然、人間から必要とされなくなったなら消える、という問題は抱えたままのはずである。
にもかかわらず、ひよが存在し続けているということは、茂伸は妖が生きられる、神域のような土地であると捉えるのが自然だ。主人公は、神隠しあるいはマヨヒガの伝承のように、そこに迷い込んだのだろう。

 

回覧板やみかん農家が存在する妖の世界、謎では

 

#6 子守歌
のしカウント 11

 

手の疲れも耳かすも取れたことにより、お手玉を成功できた主人公。喜ぶひよ、完全にかわいい。

 

前段落の最後で妖の世界がどうのと書いたが、ひよが消える問題は普通にまだ続いていたらしい。解散!
が、主人公と会ったことにより、主人公はひよのことを忘れない、そうすればひよは消えない、という話になる。え、良い話じゃん

 

という話をしている間に、雨が降り始める。ひよは、外も暗いし、泊っていけばいいと提案する。積極的ですね。

 

ひよは主人公が覚えている限り消えないが、それも限りがある。
主人公は、より多くの人間に会ってみてはどうかと提案する。ひよの歌とお手玉を活かし、託児所で働いてみてはどうかと言うのだ。急に託児所の話が出てきて正直笑った
ともあれ、ひよは主人公に頼りながらも、託児所で働くことに前向きなようだ。

 

妖ですら働くのに、私は変わらず無職だ。その事実に胸をつかれ、枕を涙で濡らしながら、ひよの子守歌を聴いて眠りにつくのだ。

 

 

 

のしカウント 計121