真冬の道東旅行記 後編

3日目 弟子屈糠平

この日の移動距離は長い。直線距離では150km程度だが、電車だと釧路と帯広を経由するため、倍以上の移動距離だ。

移動だけというのも味気ないので、前日の夜、早朝の摩周湖ツアーに申し込んだ。2日連続の早起き、夜型には堪える。

 

まだ空も暗い頃、宿まで迎えに来てもらい、摩周湖へ向かう。参加者は、私を含めて3人だった。

摩周湖は霧がかかることで有名だが、この日は晴れていて、運良く湖面を見ることができた。

山ぎわから昇る太陽を見ながら、ふと袖を見ると、雪の結晶がついていた。

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インストラクターによると珍しくはないらしいが、初めて見た私はそれなりに感動した。

 

この日はかなり気象条件がよかったらしい。

摩周湖のある高台から降りると、ダイヤモンドダストを見ることができた。

インストラクターによると結構珍しいらしいが、私は平原に広がる雪と朝日の景色の方が感動した。いやダイヤモンドダストも綺麗だったけどね…うん………

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予定していた電車は昼前だったため、歩いて駅まで向かうことにする。

昨日は真っ暗で何も見えなかったが、噴煙をあげるアトサヌプリを見ながら散歩を楽しめた。雪道は慣れないが、まだまだ雪景色を楽しむ心が残っていた。

 

電車に乗り込み、釧路湿原を横目に釧路へ、さらに帯広に向かう。

乗り換えで昼ごはんを食べ損ね、夕方に着いた帯広でラーメンを食べる。北海道はラーメンも評判だが、適当に入った店の味は、可もなく不可もなくといった感じだった。

帯広からはバスに乗る。次第に街灯の少なくなる道、他に乗客もおらず、少し怖くなりながらも、1時間ほどで糠平温泉に着いた。

 

星を見られる露天風呂があるとのことで選んだ中村屋という宿、これまで行った宿で最高の宿だった。

ロビーにはさまざまな種類の椅子があり、火鉢で好きなものを炙って食べることができる。アメニティの貸し出しも豊富で、血圧計やコロコロローラーなんかもあった。料理の説明も丁寧で、細かなところまで気配りが行き届いている。

ホスピタリティというのは抽象的な言葉だが、この宿にはそれがピッタリ当てはまる気がした。

 

露天風呂には、電気を消せるボタンがあった。押すとしばらくの間、星空を眺めることができる。

星を見る時はひたすら没頭したい派のわたくし、再び電気が点くまでが結構短いことを気にし始める。

ボタンを押し続ければ、ずっと電気を消していられる。ボタンを押すには腕を湯船の外に出す必要がある。季節は真冬である。私は裸である。

星空は魅力的だが、腕を賭ける勇気は出なかった。私はシャンクスになれない。

それでも、露天風呂から見た星空は素晴らしかった。

 

部屋に戻り少しくつろいでから、やはり星空が見たくなり散歩に出ることにした。小さな温泉街のため、少し歩けば灯りのない中で星空を見られる。

スマホの明かりを頼りに歩き、少し開けた林の中で空を見上げる。

以前に立山に泊まった時、標高が高いこともあり、満天の星空を見ることができたが、糠平に広がる星空は、それに勝るとも劣らない、降ってきそうな星空だった。

 

しばらく眺めていたが、ふと気づく。寒い。スマホを取り出し天気を調べる。

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冷凍庫じゃん

 

 

4日目 糠平〜帯広

この日は朝からタウシュベツ橋梁を見に行く。

タウシュベツ橋梁は、かつて使われていた線路で、人造湖である糠平湖が作られた際、その役目を終えた。

現在は、水位によって湖に沈むこともある。特に電力が使われる冬に沈み、水位が下がると凍った湖を突き破って出てくるため、いつ壊れるとも分からないと言われている橋だ。

夏は林道から遠く眺めることしかできないが、冬は凍結した湖を渡り、近くまで行くことができる。

 

ツアーに参加し、スノーシューで湖を渡る。私は気ままに観光するのが好きなので、ツアーにはあまり参加したくないが、いかんせん移動が難しい真冬の北海道、やむなしである。

湖の上を歩くのは初めてだった。分厚い氷に覆われてはいるが、ところどころ亀裂が入っており、ヒヤヒヤする。

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近づいて見上げた橋は、割合しっかりしているように見えて、やはり結構ダメージが入っていた。

それでもかなり長いこと、来年には壊れると言われ続けているが、なんだかんだ今日に至るまで、しっかりと残っている。

コンクリートの底力、おそるべし

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ツアーが終わると、今日は帯広に戻るだけだ。

糠平には何もない。然別湖コタンには以前から行ってみたかったが、この年の開村はもう少し先の時期だった。

早めに帯広に戻りたかったが、やはりというか、バスはかなり先だった。

ちょっとした博物館に入ったり、林の中を散歩したりして時間を潰す。目的もなく自然の中を歩くと、とりとめのない考え事が浮かんでくる。その時間は、案外嫌いじゃない。

 

帯広に戻ったのは、夜近くになってからだった。

ホテルにチェックインし、少し奮発して回らない寿司に行こうと思い立つ。

とはいえ、回らない寿司なんてほとんど行ったことがない。値段の書いていない店に入り、金が足りないので皿洗いで返す、なんて展開はできれば避けたい。

微妙に小心者のわたくし、店を検索するついでに、口コミで予算をしっかりチェックし、良さそうな店に目星をつけた。

 

酒のつまみに刺身を切ってもらい、ほどよく気持ち良くなってから寿司をおまかせで頼んだ。

ほろ酔いで食べる寿司は、幸せの味がした。北海道、回る寿司も回らない寿司もうまい。

お会計は6000円くらいだった。酒も飲んでこれなら大満足である。

 

 

5日目 帯広〜池田〜帯広

この日は夕方に帰る。観光地に行く時間はないので、近場で済ませようと考えていたが、三度早起きして、ワインで有名な池田に、ワイン城を見に行くことにした。

学生に混じって電車に乗り、駅から歩いてワイン城へ向かう。この日は平日、瀟洒なつくりの建物に入ると、来場者は私しかいなかった。

実際に製造しているところを見学できたりと、それなりに楽しんだあと、お土産にワインを買って戻ることにする。

 

ワイン城は小高い丘にあり、真下にはドリカムの記念館があった。吉田さんの出身地らしい。

妙に広い敷地にドリカムの歌が響く様は、郷愁と物悲しさを醸し出していた。

 

帯広に戻るとちょうど昼時だった。

帯広といえば豚丼、往復の電車内で店の目星はつけてある。定休日でもない。有名店なので、開店の少し前に着くよう調整済みだ。

店前に着くと、臨時休業の張り紙が出ている。知ってた。

代わりに入った店は、代わりと言うには申し訳ないほど美味しかった。なにより美味しかったのは、ラクレットチーズにつけて食べたじゃがいもだった。

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この日のメインはスイーツである。帯広はスイーツが有名な街でもある。決して私が甘いもの好きというわけではない。嘘です普通に好きです

スイーツめぐり券なる代物を買うと、500円で4店舗の商品を楽しめる。オトク。

帯広には六花亭の本店もあり、店内でしか食べられないパイを売っている。が、六花亭はこの券の対象外だった。

六花亭も行くなら、5店舗に行くことになる。思わぬフードファイトが始まった。

 

駅周辺で店のあたりをつけ、六花亭に向かう道すがら、ソフトクリームとたい焼きを食べた。

六花亭に入り、お土産と目当てのパイを買う。

円筒状のパイにクリームが詰められており、時間が経つとパイの食感が損なわれるため、店内飲食しかできない。すぐ食べなきゃいけないスイーツ、美味しんぼのマスカットが入ったモナカしか知らない。

 

パイは美味しかったが、既に3品を平らげ、腹は若干重くなってきた。

まだ昼を少し回ったところ、帰りの飛行機は夜、このままでは時間を持て余してしまう。時間潰しと腹ごなしを兼ねて、温泉に向かうことにした。温泉の近くには対象の店もあるので、一石二鳥だ。

バスで温泉に着くと、なにか様子がおかしい。貼り紙を見ると、清掃のため今日は15時から営業とのこと。さすがに知らなかった。

 

近くで時間を潰せそうなところを探すと、十勝ヶ丘展望台なるものがあることが分かった。

歩く距離はそれなりだが、行って帰ってでちょうどよい時間だろう。早速歩き出す。

序盤はよかった。上り坂と言っても緩やかで、雪道でも普通に歩ける。異変が起きたのは展望台の麓に来てからだった。

勾配が明らかにおかしい。めちゃめちゃ滑る。看板には高低差が7〜12%とある。皆さんは、高低差10%前後の雪道を上ったことがあるだろうか。私はない。普通に転んだ。

 

それでも、下りるという選択肢はなかった。上るよりも下りる方が難しいということは、昔読んだ孤高の人で学んだ。

聡明な皆様は思われたことだろう。「上り切っても、どうせ後で下りるのでは?」本当にそう。

それでもなんとか上り切って、雪景色の広がる平野を眺める。茫漠とした良い眺めだった。

 

展望台にある地図を見ると、下りる道は他にもあるらしかった。少し離れた場所に出るが、急坂を下りるよりはマシと考え、ちょっとした林道に足を踏み入れた。

思ったよりも山深かったが、割合歩きやすく、簡単に下りることができた。なぜか田んぼの真ん中に出た。なんで??????

 

温泉は既に開いており、昼間から温泉に入る贅沢を噛み締めたあと、近くの店でチケットを使いフィナンシェを食べた。

飛行機まではまだ時間があるが、最後の店は駅の反対側、少し離れた洋菓子店に決めていた。

店まで歩く途中、凍結した道をママチャリで走るおじさんを見かけた。

道民は雪道でも転ばない歩き方を会得していると聞くが、自転車でも走れるとは驚きである。10mおきに足を滑らせながら、そんなことを思う。

 

洋菓子店は、駅から離れた、落ち着いた佇まいの建物だった。

商品はどれも目を引き、チケットで得たプリンの他に、チーズタルトを頼んだ。食べすぎでは?

食べながらコーヒーを飲み、この5日間を思い返す。旅の終わりは、満足感と寂しさが混じった不思議な気持ちになる。

 

駅に戻り、バスで空港に向かう。

47都道府県を訪れても、行きたい場所はまだまだ散らばっている。

死ぬまで大切にできる趣味に出会えたことに感謝しつつ、雪で1時間遅れた飛行機を待った。翌日仕事溜まってたから飛んでよかったほんとに…